人事制度、給与・退職金制度、デキる人材の採用・育成(戦力化)・定着を三位一体でサポート!
大阪人事コンサルティングセンター
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『確かに彼は仕事はできる…でも反抗的なんだよな…』
『彼は営業成績はずば抜けている!でも部下への当たりがきついんだよなぁ…』
『エンジニアとしての技能はすごい!でも職人気質で周りとうまくやれずに孤立するんだよなぁ…』
こういった社員さん達の処遇の仕方でお悩みになった経験はございませんでしょうか?
とかく人材不足の中小企業のみならず、我が国の企業は『仕事ができる』『高い業績を残す』人材を厚遇し、出世させ、何らかのポストに登用するという伝統が残っているように思います。
こういったやり方の弊害として、部下や後輩への指導力、育成力のない人材が管理者となってしまい、人が育たない職場になってしまったり、部下への当たりが強い社員がパワハラ問題を引き起こしたり…。というようなことは想定されることだと思います。
また、仕事のできる人材は周りへの影響力が強いので、出世させ、経営に携わらせた結果、自分を慕う部下や後輩たちを中心に抵抗勢力を作り、社長、経営陣と真っ向から対立してしまった…。などという笑うに笑えない話も聞いたりします。
こういった事態にならないように、人事評価制度には業績以外の評価軸もしっかりと設計した上で、慎重に運用していく必要があります。
このページでは、『仕事はできるが、組織の和や統率を乱す社員』の評価を行う際の注意点や評価制度を活用した社員の処遇方法を解説していきたいと思います。
“名選手、名監督にあらず…”
ーその格言の根拠となるPM理論という考え方
“名選手、名監督にあらず”という格言はご存じでしょうか?プロ野球でも名選手として鳴らした人物が選手時代の実績を買われて監督を引き受けた…。でも結局期待された結果を出せなかったという例は枚挙にいとまがありません。
プレイヤーとして現場で業務をする能力が長けている社員がいたとしても、その人物が同時に会社や組織のカルチャーと融合する適応力や部下を育成する能力も併せ持っているとは限らないわけです。
PM理論における仕事力と関係力
“名選手ではあるが、名監督になれない人材をどのように評価すればよいか…。”
“仕事できるが、組織の統率を乱す人物をどのように評価するか?”
このような課題、難題を抱える経営者の方は多いと思いますが、課題解決の一つのヒントとなるのが、“PM理論”という考え方です。
PM理論とは、組織リーダーシップ論の第一人者、社会心理学者の三隅二不夫先生が提唱された理論でその主な考え方として、組織を成長させるリーダーの要素として以下の2要素が必要とされています。
P機能(P=Paformance:業績)
プレイヤーとしては組織の期待に沿う業績をしっかりとたたき出す仕事力。リーダーとしては指揮命令や叱咤などによってチームの業績や生産性を高める能力。ここではわかりやすく“仕事力”と呼ぶことにします。
M機能(M=Maintenance:人間関係の維持)
プレイヤーとしては、人間関係や職場の雰囲気を良好に保つ関係維持力。リーダーとしてはチームワークを強化したり、よい組織の雰囲気を醸造する能力。ここではわかりやすく“関係力”と呼ぶことにします。
各人のP機能(仕事力)、M機能(関係力)はその能力により以下の4タイプに分類できます。
P機能(仕事力)が優れている | P機能(仕事力)が劣っている | |
M機能(関係力)が優れている | PM型 | pM型 |
M機能(関係力)が劣っている | Pm型 | pm型 |
組織としてはもちろん、PM型の人材が多くいることが望ましいことは言うまでもありません。PM型の人材が多い組織ほど大きく成長、拡大することは間違いありません。
ただし、ここで特に細心の注意を払わなければならないのはPm型の人材、つまりP機能(仕事力)は優れているがM機能(関係力)が劣っている人材の処遇についてです。
このページのお題目である『仕事はできるが組織の統率を乱す』人材というのは、まさにPm型のタイプの人材のことを指しています。
このPM理論を評価制度の運用という点で考えると、P機能(仕事力)に関わる業績や結果というものは、可視化しやすく、評価の対象としやすいのです。一方で、M機能(関係力)に関わる人間関係や雰囲気の醸造等の能力は可視化できないため抽象的で評価しにくい運用になってしまいがちではないでしょうか?
そのような理由で現行の運用では、M機能(関係力)が劣っていても、仕事ができて結果を出す社員、つまりPm型の社員が出世の階段を昇るような設計になった人事評価制度を運用されている企業さんも結構お見掛けします。
Pm型社員を厚遇するような設計にしていると、上記でも申し上げましたが、
・部下への当たりが強くパワハラ問題を引き起こす
・育成能力のない管理者の下についた部下が育たない
・自分を慕う部下や後輩を引き連れ、社長や経営陣の抵抗勢力になる
こういった経営者にとって非常に頭の痛い、ストレスを感じる問題を引き起こす可能性が高くなります。また、誤ってPm型の人材を役員等の経営陣に引き上げてしまった場合、その人物の周りへの影響力のせいで、社長が孤立する危険性も考えられるでしょう。
取締役会等の会社の方向性を決めるような場で社長が舵取りをできないばかりか、社長個人を犠牲にするようなことまでもが決められかねない状況に陥ってしまう…こういった事態は規模の小さな中小企業では充分あり得ることなのです。
Pm型(仕事力は優れるが関係力は劣る人材)の処遇のキモ
PM型(仕事力、関係力共に優れた人材)社員が出世してリーダーや管理者となる評価制度を構築することが組織にとっての成長に繋がり、職場環境を良好な状態に保つ秘訣であるということは、前述した内容からわかってもらえるのではないでしょうか?
ただ、応募者の中からこういったPM型人材を見抜いて採用したり、現状の社員さん達をPM型人材に育成していくことは、中小企業にとっては非常に骨の折れる作業だと思います。
一方で面接のときに見抜けずに、前職でいい仕事をしたという理由で『仕事はできるが組織の統率を乱す“Pm型”社員』を採用してしまい、その後その社員の対応に苦慮される、中小企業経営者のお話はよく聞きます。
このような、『仕事はできるが組織の和を乱す』Pm型人材が存在を前提とした組織では評価制度をどのようなに運営していくのがその後のリスク防止策につながるのでしょうか?
この命題を解決するための、基本的なコンセプトとしては、中国の歴史書である『書経』という書物に述べられている、以下の格言が的を射ていると思います
“功あるものには禄を与え、徳あるものには地位を与えよ”
つまり、Pm型人材に対する処遇としては、給与や金銭的な対価を与えるような評価の体制を整えたとしても、経営幹部として会社経営の舵取りを任せたりや部下を育成する立場に据えたりするということは、望ましくないということです。少なくともその後の教育によってM機能を成長させるまでは、それなりの地位を与えることは危険と言えるでしょう。
この格言を評価制度に落とし込む方法として考えられるのは次の3通りです。
方法1.コース別人事制度(複線型人事制度)
複線型人事制度というのは、管理職ポスト不足が顕著となった、1990年代初頭より大企業を中心に導入が進んだ制度で、課長や部長等の経営幹部になるというようなマネージメントの方面以外にも、例えば、技術的に突出した能力や実績があるエンジニア等の人材に対し、高度の専門性の発揮度合いや特定分野のエキスパートという立場から処遇や階層に別ルートのはしごを設計するという考え方です。
導入が進んだ1990年代の初頭には、主にマネジメント部門と技術部門の2本立ての制度がおおかったのですが、昨今の世の中がより『多様性』を求める情勢を反映し、複線型人事制度もより複雑なものが設計される傾向が見られます。
以下の事例は事業戦略に合わせ、縦軸に創造と運用を引き、横軸に組織と個人を引いて、4つのコースで処遇する場合のコース分けの考え方です。。
このような、複線型のコース制度を導入することによって、M機能(関係力)が劣る従業員の処遇については、マネジメントコース等の組織運用から外れたコースを選択をすすめたり、横軸の“組織-個人”については、“個人”が尊重されるコースを選択をすすめたりする等、Pm型社員(仕事はできるが組織の和を乱す社員)の対処は理論上は可能となります。
ただし、この複線型人事制度には、
・コース選定や管理職認定等の基準作りや導入後の制度運用の難易度が高い
・適切な人選や運用が行われないと、専門職群に本来入れるべきではない人材も混じってしまう。
・オールラウンドプレーヤー(ゼネラリスト)育成には向かない
というようなデメリットも存在します。
様々なバックグラウンドを持つ従業員の多様性に対応するという命題を抱えた、大企業においては、1つのソリューション(解決策)にはなると思われますが、少ない戦力で社内の色々なことをこなさなければならない、中小企業や中堅企業にとっては、導入には、かなりハードルの高い制度になりますので、別の解決策を考えるべきでしょう。
方法2.マネジメント(リーダーシップ)コンピテンシーの強化
現実的な話、規模の大きい大企業であれば、従業員の多様性に合わせて、専門職群をコース分けすることにより、各従業員のストロングポイントのフォーカスして処遇する、上記のような複線型人事制度における運用のメリットは大きいと思われますが、中小企業や中堅企業のように、少ない戦力でより多くのことをこなさなければならないことを求められるような、職場環境であれば、複線型人事制度の導入や導入後の運用は敷居が高いと言わざるをえないでしょう。
よって、従来の単一型の等級制度で『Pm型社員=仕事はできるが組織の統率を乱す社員』の対応をどのようにしていくかということを考えていかなくてはなりません。
そのためには、評価の物差しの中に『マネジメント・コンピテンシー』という考え方を据え置いていく必要があります。
*コンピテンシーとは…
高い業績を上げる社員に共通した行動、つまり『仕事のデキる人の行動』のこと。
組織のリーダーとして高い業績を上げる管理職社員の行動様式のことを、『マネジメント・コンピテンシー』あるいは『リーダーシップ・コンピテンシー』と言います。
リーダーとして組織を引っ張る人材として必要なスキルと考えられる要素が以下の15個の項目です。
上記の要素を評価制度構築の中で行動評価に落としていき、管理職候補あるいは管理職にあたる等級に該当する社員たちには、そういった動き、行動ができているかどうかで、M機能(関係力)が足りない社員たちに管理職になるためのハードルを設けることができます。
上記の15項目のスキルを、行動評価の評価要素に落とし込む上で、特に管理職のM機能(関係力)とリンクする考え方が、『集団凝集性』という概念です。
集団凝集性とは…
その集団、組織にいるメンバーが集団にとどまろうとする心理的力の総量のことをいいます。集団凝集性が高い組織は、メンバーの団結力や協調性が強化されたり、大きな目標の達成にチーム一丸となれれる体制が整ったり、メンバーの個々が高いモチベーションを維持ができたりといった特徴があります。
何よりも組織への帰属意識が強化されるので、メンバーの離職率が下がるということが、大きな特徴の一つとなります。
リーダーのどういった行動が集団凝集性を高めるのか?
・部下にこまめに声掛けをしたり、よい動きをした際はすかさず褒める等の関係欲求を満たす行動
・部下に適切な難易度の目標を立てさせ、こまめに達成の支援をし、達成した際は喜びを分かち合う
・組織と従業員の双方にリンクする魅力的な未来図を可視化し、周知できる
・市場の競合相手を意識させ、組織としての外的脅威に対して同じ目線を持たせる
管理職やリーダー候補たち『M機能の有無やその発揮度合い』を見るにあたっては、集団凝集性という考え方を念頭に置いて、その等級や役割にふさわしい行動評価項目を立案した上で評価し、その評価にふさわしい立場、役職を与えるということが大事になります。
この手法には、M機能が劣る社員に対しても管理職への登用に一定のハードルを設けることができるというメリットがある反面、出世の階段が単一にしか設けられていないので、高い技術力や業務力を持つ人材(P機能が著しく高い人材)にふさわしい処遇ができないために、そういった人材のモチベーションが削がれてしまうというデメリットもあります。
方法3.マトリクス型の等級制度の設定
各社員のP機能(仕事力)とM機能(関係力)のそれぞれの能力や発揮度合いを見るには、この双方の機能を俯瞰して見れるような等級制度があればよいということになります。
P機能とM機能の双方が簡単に俯瞰して見れるような制度が構築できるようであれば、大企業並みに設計も運用も難易度の高い複線型人事評価制度を検討する必要もなく、中小企業、中堅企業にとっても非常に使い勝手がよく、かつ導入の敷居が低い制度と言えるでしょう。
以下の画像をご覧ください。
P機能を評価する軸とM機能を評価する軸の2軸で従業員をマトリクス方式で評価する手法になります。
この評価制度の見かたは縦にStageという等級軸を作り、P機能=仕事力のランク付けを行います。と同時に横にClassという等級軸を作り、M機能=関係力のランク付けを行います。
こうすることで、個々の従業員のP機能、M機能の双方の現時点での能力・実力及び立場・役割をワンマップで俯瞰できます。
M機能つまり、Classの軸の等級展開の際は、上記に述べた『集団凝集性』を意識して、各等級に求められる役割を設定していけば、団結できる組織の形成に、この評価制度が大きく貢献することになるでしょう。
この評価制度の優れている点としては、
・仕事力(P機能)の高い人材には禄(=賃金)の部分、つまり縦軸(=Stage)の方で手厚く処遇できる余地を残しているため、モチベーション高く働くことができる。
・仕事力(P機能)の高い人材で、かつ将来的に会社を担ってもらいたい従業員には、横軸(=Class)の展開に従い、M機能に関するスキルを教育し、補完できる制度となっている。
PM理論という概念を抜きにしても…
・能力主義評価(縦軸)とポスト主義評価(横軸)を並行して行うため、職能資格制度とジョブ型評価が両立できる(それぞれのデメリットを乗り越えられる)
・原則1枚の表で等級要件、賃金、キャリアステップの全てが把握できるので、経営側、従業員側双方にとってわかりやすい。
ということが強みとなってきます。
P機能の強い社員、つまり職人的素養があり、腕を磨き会社に貢献するという人財、M機能の強い社員、つまり部下をしっかり育成し、力を発揮させる環境を整える人財、どちらも中小企業にとっては重要な人財です。
P機能、M機能両方の素養がしっかりと育つ環境を社内で作っていくことももちろん必要ですが、同時に、どうしてもどちらかの機能に偏ってしまう社員については、適材適所の配置、キャリアステップの考慮、理にかなった処遇等で、彼らのモチベーションを腐らせないような社内制度の構築が不可欠になってきます。
上記でご紹介した、P機能、M機能を俯瞰的に見れるマトリクス型の人事評価制度は課題解決の一つのソリューションになると思います。
児島登志郎
児島労務・法務事務所代表
社会保険労務士・行政書士
組織心理士・経営心理士(一般財団法人 経営心理士協会認定)
採用定着士(一般財団法人 採用定着支援協会 認定)
元 大阪労働局 総合労働相談員
元 労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員
10年間労働基準監督署にて、労働相談員、点検指導員を勤め、その間受けた労使双方からの労働相談件数は延べ15,000件以上。労働者側、使用者側の双方からの多くの相談を受けたことにより、社員のモチベーションポイントがどこにあるかを把握するきっかけとなった。現在はその経験と後に習得した心理学の知識を活かし、人事評価制度導入や社員研修、組織コンサルティング等により組織の活性化や社員のモチベーションアップで企業をサポートしている。