『ジョブ型』評価制度ーどうアプローチする?

なぜ今『ジョブ型』か?ーその背景をさぐる

その時の時代背景で評価制度のトレンドも変わってきました。

 

経済情勢や時代背景による評価手法の変遷をたどると…

 ☆変遷の歴史

1.第一次変遷期(1980年~1990年代

 ・職能資格制度の台頭

 ・コンセプト:年功制ではなく能力で評価を!!

 ・時代背景:企業で中間管理職を担う年代になっていた、団塊世代のポスト不足の解消。課長になれない社員を『参与』『参事』等のポストを与え、マネージメント以外にもラダー(=はじご)を作り(複線型)、能力の指標で処遇することで、団塊世代のモチベーション維持を目的とした。

 ・取り入れられたツール:職能要件書

2.第2次変遷期(2000年~2010年)

 ・成果主義人事への変革

 ・コンセプト:プロセスより成果、チームより個を重視、ペイ・フォー・パフォーマンス

 ・時代背景:1990年代のバブル崩壊により、多くの企業では業績が悪化に加え、中間層の社員の人件費の膨張という問題を抱えていた。勤続年数が長いだけで結果の出せない管理職社員に高い給与を払わなければならない、という従来のやり方にメスを入れる必要が生じた。

 ・取り入れられたツール:KPI,KGI,バランストスコアカード等の業績指標

3.第3次変遷期(2020年~)

 ・『ジョブ型』評価制度への注目

 ・コンセプト:“君、何ができるの?”⇒職務や技能・スキルにスポットライトが当たる!

 ・時代背景:“同一労働同一賃金”という法的な風向きの変化に加え、大企業を中心にこれまでの主力業務の競争力が弱化し、海外市場を含め、未開拓でかつ成長が見込まれる分野に対しての人材調達や人件費投資が急務となっている。そういった状況下でその道で飛び抜けた存在の社員(高度専門人材)をきちんと処遇(引き抜き、引き留め)できる職務給制度に注目が集まっている。(職能資格制度では飛び抜けた人材の処遇が困難)

 ・主なツール:職務等級制度、職務記述書(=ジョブ・ディスクリプション)

 

まとめー評価制度変遷の歴史(1980~2020年代)
  評価基準 コンセプト 背景 重視されるのは? 備考
Ⅰ期:職能資格制度 能力 年功制からの脱却 ポスト不足、団塊世代のモチベーション維持 チームワーク 結果的には、年功制から完全脱却できなかったが、日本型のオーソドックスな評価制度として今も重宝する企業が多い。
Ⅱ期:成果主義人事 成果 プロセスより結果! 管理職の人件費の削減 個の力量

日本企業の長所であった“チームワーク”や“*組織市民行動”が反故にされた。結局的に成果には繋がらず経営者の熱は急速に冷めた。管理職受難の時代

Ⅲ期:ジョブ型評価制度 職務、技能、スキル 『君、何ができるの?』 飛び抜けた人材の確保と処遇強化 個の力量

スペシャリストを活用する制度として経営者の注目を集める。一方で個の力量が重視されるため、チームワークや*組織市民行動が軽視される懸念も…。専門職、一般職受難の時代となる…??

*組織市民行動”とは…割り当てられた業務以外でチームや組織に貢献する行動のこと。日本企業の古き良き企業文化の一つと言える。1980年代のアメリカの研究では、評価に直接影響を与えないこれらの行動が生産性向上や離職率改善に大きく影響するという結果が出ている

 例)・共有スペースの整理整頓、掃除

   ・親睦を目的とした社内行事の企画運営

   ・組織の盛り上げ役(ムードメーカー)を買って出る

   ・自分の業務以外であっても、多忙な同僚を率先的に手伝う  等々

 

中堅企業、中小企業に適した『ジョブ型評価』とは??

技能やスキルにスポットが当たる評価制度が主流になるか??

わが社の課題を把握した上で『ジョブ型評価』の検討を!!

 ジョブ型評価ー2通りの考え方

 成果でもない、行動プロセスでもない、技術や技能にスポットが当たるジョブ型評価制度は仕事の基準がきちんとできるというメリットがあります。また、自社にとって離したくないスペシャリストたちをしっかりと処遇するための制度という側面も持ちます。

『仕事の基準の明確化』という観点でジョブ型評価を考えるのであれば、そのアプローチの方法は以下の2通りです。

 Ⅰ型:『ジョブ型』の概念を仕事内容そのものととらえる

   ・職務等級制度の導入

   ・職務調査をしっかりと行い、“ジョブ・ディスクリプション”を作成する

 Ⅱ型:『ジョブ型』の概念を技能・スキルの習熟度ととらえる

   ・技能やスキルの習熟度をプロセス評価の中で反映する

   ・各職種によりプロセス評価でのスキル(技能)評価の重要度(ウェイト付け)を決める

 御社の現行の課題に合わせて、上記の2通りの手法のうち、どちらを選択するのかを検討することが、ジョブ型評価制度を導入する上でのポイントとなるでしょう。

 例えば、上記でも述べた通り、新たな成長市場の開拓という命題があり、その分野での突出したスペシャリストをどうしても雇い入れ、それ相応の処遇を行うことが必須なのであれば、Ⅰ型の職務等級制度やジョブ・ディスクリプションを活用したジョブ型評価制度を選択する方がよいということになります。ただし、この手法は『個の力量』を重視するシステムですので、従来のチームワークや組織市民行動が犠牲になるリスクは生じます。

 一方で、『今運用している人事評価制度ではなかなか年功制が脱却できない』『高い離職率の状態が続く』『社員が思うように成長してくれない』ということが課題に上がるのであれば、ジョブ型評価制度の切り口であってもⅡ型、つまりスキルの習熟度を評価の物差しとする手法を推奨します。

 

中堅、中小企業の本来の“良さ”を引き出すための『ジョブ型評価制度』とは?

個の力よりチームワーク重視で!

『多能工化』か『突出したスペシャリストの厚遇』か…?

 前述した通り、日本の中堅、中小企業の元来から持つ長所は評価の対象にならないことであっても組織のために貢献しようとする『組織市民活動』に代表される『チームワーク』です。そのチームワークの源となるのは、「お願いすれば何でもできる人/わかる人」つまり、多能工的な人材=ゼネラリストの育成ということになってきます。

 これに対し、職務内容を詳細に記載した職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)で職務の守備範囲を明確に限定して雇用契約を行う欧米型の職務等級制度では、組織が硬直化し、多能工的な人材の育成が進まず、チームワークに亀裂が入るリスクもあります。2000年代初頭の『成果主義人事』での失敗と同じ轍を踏まないように留意しなければなりません。

 中堅、中小企業は今後も引き続き、ヒトが採りにくい時代が続いていきます。少ない人数で業務を回していかねばならないという事を考えた場合、何でもわかる人/できる人=ゼネラリストの早期育成が命題となってくるのではないでしょうか。

 そういった、状況下で『ジョブ型評価導入』を検討した場合、一部のスター選手候補を厚遇する上記の『I型手法』つまりジョブ型の概念を仕事そのものととらえる手法よりも、中堅企業、中小企業にとってはチームワークや多能工化を重視する『Ⅱ型手法』つまりジョブ型を技能・スキルの習熟度ととらえる評価手法のほうがしっくりくるように思われます。

 *ただし、これは一般論であって、中堅企業、中小企業であっても現状抱えている課題に即してⅠ型手法を検討する余地はあり得ると思います。

 

・チームワークが『個の力』を凌駕した事例

2016年リオ五輪決勝の記録とリレー直前シーズンベストの合計タイムの比較>

 

順位

 

記録

 

 

国名

 

 

100m合計

 

 

1走

 

 

2走

 

 

3走

 

 4走

37.27

ジャマイカ

2)39.60

9.92

9.93

9.94

9.81

37.60

日 本

6)40.52

10.05

10.36

10.01

10.10

37.64

カナダ

5)40.37

10.16

9.96

10.34

9.91

37.90

中 国

7)40.70

10.30

10.08

10.08

10.24

37.98

イギリス

4)40.32

10.01

10.08

10.04

10.19

38.41

ブラジル

8)40.86

10.21

10.11

10.28

10.26

失活

37.62

アメリカ

1)39.58

9.97

9.80

9.97

9.84

失格

38.09

トリニダード・トバゴ

3)40.22

10.07

9.99

10.19

9.97

上記の通り、100mのシーズンベストの合計で日本は6番目。しかし、見事なパスワークで100mの走力の劣勢をカバーして『個の力』では全く歯が立たなかった欧米諸国を上回り、「銀メダル」を手にしたことは記憶に新しいところです。(東京オリンピックは残念でしたが…)

『ジョブ型評価制度』ースキルの習熟度をどう評価に反映していくのか

 中堅・中小企業との相性がいいと思われる、スキル習熟度に着目した『ジョブ型評価制度(Ⅱ型)』ですが、具体的にどのように評価に反映していけばよいのでしょうか?

 *事例の掲載につきましては、実際の導入事例に当方がアレンジを加えた形で掲載しております。

★スキルマップを活用する手法

 

スキルマップー製造スタッフの例

横マス:習熟度

縦マス:工程

一通りできる 時間内に完了できる 後輩に指導できる メンテナンスができる
押出作業

①樹脂注入

②管を機械まで通す

③ ………………

(以下作業手順を記載)

⑥ ………………

⑦巻替えをする

①機械の立ち上げ作業を45分以内に終えれる

②幅の変更作業を20分以内に終えれる

①作業内容をロジカルに説明できる

②作業トラブルの際の対処ができる

③作業トラブルの理由がわかる

 

①機械トラブルの要因を特定できる

②部品交換ができる

③機械不調の際の応急処置ができる

延伸作業

①槽に管を通す

②管に空気に入れ、幅を確保する

③ ……………

(以下作業手順を記載)

⑦ ……………

⑧曲がり具合を調整する

①延伸作業を5分以内で終えられる

①作業内容をロジカルに説明できる

②作業トラブルの際の対処ができる

③作業トラブルの理由が分かる

①機械トラブルの要因を特定できる

②部品交換ができる

③機械不調の際の応急処置ができる

連続作業                     省略
リーク押出作業
横出作業

①樹脂注入

②管を機械まで通す

③ ………………

(以下作業手順を記載)

⑥ ………………

⑦巻替えをする

①機械の立ち上げ作業を45分以内で終えられる

②幅の変更作業を20分以内で終えられる

 

①作業内容を第3者にロジカルに説明できる

②作業トラブル際に対処ができる

③作業トラブルの理由が分かる

①機械トラブルの要因を特定できる

②部品交換ができる

③機械不調の際の応急処置ができる

 

 

★このスキルマップを各スタッフの習熟度に反映していきます

 

習熟度チェック表

横マス:作業工程

縦マス:氏名

押出作業 延伸作業 連続作業 リーク押出作業 横出作業
   田中    S   S   S      A    S
   山田    C   B   B      A    C
   渡辺    A   A   A      S    A
   鈴木    C   C   C      C    C

     S:メンテナンスができる A:指導ができる B:時間内にできる C:一通りできる

プロセス評価に組み込むジョブ型評価(=Ⅱ型)導入の基本コンセプト

◆評価を2本の軸と3つの視点で設計

    

 第1軸:プロセス評価(能力部分も含む)

           ■行動⇒~している〈コンピテンシー〉

           ■技能⇒~できる 〈スキルマップを活用 〉

 第2軸:成果    ■やったこと

    *評価の2軸の考え方については前ページ『評価の軸をどう設定する?』をご参照ください。

 

◆処遇への反映①(昇給・賞与)

 2本の軸及び3つの視点での評価の配分割合(ウェイト)を職種ごとに決めて、昇給(基本給)や賞与に反映します。ここで、技能やスキルが重視される職種には技能評価の配分を相対的に大きく取ることが、Ⅱ型のジョブ型評価導入の勘所となります。

 

各職種ごとのウェイト配分の例
           開発職             製造職
1軸:プロセス評価 70 行動 20 1軸:プロセス評価 90 行動 10
技能 80 技能 90
2軸:成果評価   30 2軸:成果評価   10
           営業職             業務職
1軸:プロセス評価 20 行動 100 1軸:プロセス評価 20 行動  50
技能   0 技能  50
2軸:成果評価   80 2軸:成果評価   80

 

◆処遇への反映②(昇格)

 技能、スキルの習熟度をポイント化あるいはレベル分けすることにより、現状の等級制度(職能等級制度、役割等級制度)がそのまま活用できます。等級制度を抜本的に変える必要がないので、現場が混乱することなく、ジョブ型評価のアプローチができます。

 以下の事例を参照ください。

ジョブ型評価:スキル習熟度を昇格の基準に活用する事例。
現在の等級制度をそのまま使えます。

また、この手法の別の面での効果として『上司部下の間に距離があってもリーズナブルな評価が下しやすい』という点も挙げられるでしょう。技術職、エンジニア職は『行動=コンピテンシー』という観点だけではなかなか評価しにくい職種かと思われます。

 昨今のIT等の技術の複雑化で、お客様の事業所に常駐してサポートを行うような就業形態を取る技術職やエンジニア職の方も少なくないのではないかと思います。それに加え、エンジニア以外の職種であっても『コロナ禍』の影響によるリモート勤務により、上司と部下の距離が遠くなっているケースも多いのではないでしょうか。

 こういった『評価者=上司』と『被評価者=部下』の間に距離があり、上司が部下の行動を逐一把握しにくい環境下であっても、スキル習熟度を評価の対象に据えることで、適切かつ公正な評価が下しやすい状態を生み出します。

 

中小企業が職務等級制度を検討する場合の留意点

現行の課題や将来のビジョンに沿った制度設計を!

『職務等級制度』『職務給』は中小企業には向かないのか?

 ここまでの内容で、日本国内の中堅企業や中小企業には、職務内容そのものを評価の対象とする『Ⅰ型ジョブ型評価制度』よりも、技能の習熟度をプロセス評価として反映させる『Ⅱ型ジョブ型評価制度』の方が向いているという考え方をお伝えしてきました。

 チームワーク、多能工化という日本の中堅企業、中小企業の良い部分をもっと活かし、かつ技能、スキルにスポットを当て仕事の能力を向上させる手法が、今後も続く労働人口の減少⇒人出不足という国内企業が抱える課題に対処するための一つの解決策になるのではないかと思われます。

 とは言っても中小・中堅企業の中には、会社の命運を掛けて、新しいマーケットや海外に進出しようというケースもあろうかと思います。そういった場合はその新規市場での高度専門職の確保や処遇といった課題が出てこようかと思います。また、海外、特に欧米では職務給制度が一般的であることが多いので、それに合わせた制度も検討対象となるでしょう。

 そういった場合は、職能等級制度等のオーソドックスな制度では、高度専門職、つまり突出したスペシャリストの思い切った処遇ができないので、職務等級制度の導入(=Ⅰ型のジョブ型評価)を検討することになります。

 また、中小企業であっても、業種によっては市場価値から割り出した給与を充てる職務給制度が向いている職種もございます。慢性的に人手不足が続く、トラック運送業のドライバーなんかがそのいい例かと思います。

 ただし、等級制度変更等を伴う大掛かりな制度改革に際しては、現行社員が不公平感を感じたり、社内に大きな混乱を招くリスクがあるので、できれば『ソフトランディング(安定を保った穏やかな移行)』にて対応する方がベターでしょう。

 ソフトランディングの手法としては

  Ⅰ型のジョブ型評価とⅡ型のジョブ型評価のハイブリッド型(1国2制度型)とするのが理想でしょう。以下の図式でイメージ下さればと思います。

ハイブリッド型(1国2制度)のジョブ型評価のイメージ

このハイブリッド型は新卒社員を含むの若手のキャリアプランの指標となり彼らのモチベーション向上に繋がってくるでしょう。

 

まとめ)

 当ページを通じて、中堅企業、中小企業に合うジョブ型評価の導入について当事務所なりの考え方を記載させていただきました。ジョブ型評価を導入するか否か、導入したとしてもどのような形態を取るのかということの一つの判断基準にして頂ければ幸甚です。

いずれにせよ、現状の御社がどのような課題を抱えているかであるとか、将来的にどのようなビジョンを持っているかという事を踏まえた上で検討すべきことだと思います。

 当事務所では、現行の社員の評価や育成についての課題点や問題点、将来の経営ビジョンを丁寧にヒアリングした上で、解決に導く人事評価制度の設計のお手伝いをさせていただいております。

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