退職金お役立ち情報-退職金額算定方法あれこれ

退職金の算定方法は様々!会社の身の丈にあった制度の導入を!!

退職金制度は中小企業にとって、自社の魅力を就活中の若者達にアピールするための有効な福利厚生的な報酬として、また、現在在職中の従業員たちの長期定着のモチベーションとして今後有効なツールとなってくるのは間違いないでしょう。

 また、わが国建国以来の少子高齢化の余波により、年金制度の根底である世帯間扶養のモデルが崩れてしまった昨今においては、現役世代も引退後の生活は決して保証されたわけではなく、そういった意味でも就活中の学生や若者はもちろん、今いる従業員の退職金への期待は膨らんでくるものと思われます。

 一般的に退職金といっても、退職時に一時金として支給するものや、年金として支給するケース等様々なケースがありますが、ここでは、退職一時金によく運用されている金額算定方法についてご説明していきたいと思います。

退職金額算定方法その1-定額制度

定額制の退職金制度とは、単純に勤続年数と退職事由(自己都合or会社都合)だけで退職金額を定める制度のことです。設計は非常に単純かつ明解なものになります。

 この定額制のメリットとしては、制度が複雑でなく、誰が見ても退職金額が把握できる点。また、将来の退職金額の支払い予想が立てやすい、給与制度の影響を受けないため給与制度を変更しやすい等が挙げられます。その反面会社に貢献のあった人もそうでない人も勤続年数のみで評価されてしまい、在職中の貢献度が反映されないというデモリットもあります。

 以下定額制退職金のイメージです。

定額制退職金のイメージ)
                      退職金基準額
勤続年数 会社都合退職 自己都合退職
3年未満  支給なし  支給なし
300,000円  150,000円
    省略      省略
10 900,000円 500,000円
11      省略      省略
12
13
14
15 1,900,000円 1,200,000円
16年以上      省略       省略

 こちらのモデルケースでは、もし在職15年で自己都合退職をした場合の退職金は120万円ということになります。

退職金額算定方法その2-(退職時)基本給連動型

基本給連動型退職金制度とは原則退職時の基本給を在職年数や退職事由に連動させ、退職金の金額を決める仕組みのことを言います。給与比例制退職金ともいいます。

一般的には以下の計算式で退職金を算定します。

  ①退職時の基本給 × ②勤続年数に基づく支給係数 × ③退職理由に基づく削減率

 *①退職時の基本給については在職中のベースアップ等により、当初の想定よりも水準がアップ

 **②勤続年数が長くなるに従い支給係数がアップ

 ***③自己都合退職は削減率を乗じて削減するのが一般的

 

 この(退職時)基本給連動型退職金は計算や管理が比較的容易に行えるというメリットがありますが、在職中の昇給(ベースアップ含む)により想定以上の高額になることがあり、将来の退職金額の予測がつきにくい。基本給をベースとすることから、給与制度そのものに問題があっても見直しが行いづらい。貢献度より在職年数が評価される等のデメリットも指摘されています。

 また、退職金額が予想以上に高額になることを避けるために、退職金額連動する基本給を最終のものとはしないで、在職中の平均等に換算して計算する方法も最近では取り入れられています。

 

基本給連動型退職金のイメージ
勤続年数(月単位切捨て) 10
退職金支給係数(●ヶ月分)

1.5 1.85             省略 4.5
勤務年数(月単位切捨て) 11 12 13 14 15 16 17 18~35年未満 35年以上
退職金支給係数(ヶ月分)        省略 10.0   省略  省略  50.0

 

退職理由別の係数のイメージ
退職理由 勤務年数 係数
自己都合 3年未満 0.00
3年以上10年未満 省略
10年以上20年未満 0.72
20年以上30年未満 省略
30年以上
定年もしくは会社都合     年数問わず 1.00

 

 上記退職金規定での金額算定の例)

  勤続15年、基本給30万円の社員が自己都合退職した場合の金額は…

   30万円×10カ月分×0.72(係数)=216万円 

                  が支払い退職金ということになります。

    

退職金額算定方法その3-別テーブル方式

 

 別テーブル制の退職金制度とは、給与制度とは全くリンクさせることなく、切り離した形で、勤務年数に応じた基準額を設定し、退職時の役職など等級別に応じた係数を掛け算し、退職金額を算出する制度です。この算定手法の長所としては、将来の退職金額の把握や計算が比較的容易であること、給与制度と切り離すことにより、給与制度の変更に際し、退職金制度は気にしなくてはよい点が挙げられます。しかしその一方で、評価の対象が勤続年数と退職時の役職や等級に限定されるために、在職期間全体の貢献度が反映されないという、短所も持ち合わせています。

 

              別テーブル制退職金のイメージ

           退職金基準額       (退職時の)等級別係数
勤続年数 会社都合退職 自己都合退職 1級 2級 3級 4級
3年未満  -  -  -  -
4年 250,000 130,000 1.0 1.05 1.1 1.15
5年    省略    省略  省略  省略  省略  省略
6年
7年
8年
9年
10年 900,000 550,000 0.9 1.0 1.1 1.2
11年    省略    省略  省略  省略  省略  省略
12年
13年
14年
15年 1,850,000 950,000 0.8 0.9 1.0 1.1
16年以上    省略    省略  省略   省略  省略   省略

 

 上記の規程での退職金金額の算定例)

  勤続年数が10年、自己都合退職、退職時の等級が3等級の場合

   550,000円(退職金基準額)×1.1(等級別係数)= 605,000円(退職金額)

     となります。

 

退職金額算定方法その4-ポイント制退職金制度

ポイント制退職金制度とは主に

   ①在籍年数

   ②在職期間における各等級または各役職での滞留年数

 これらの2つの要素を評価対象とし、それそれの要素をポイント化し、在籍期間、滞留期間ごとに付与し、在職中に蓄積されたポイント数にポイント単価を乗じた額を退職金額とする算定手法です。

 

ポイント制退職金制度のイメージ)

在職ポイント
在職年数 3年未満 3年以上12年未満 12年以上30年未満 30年以上
在職ポイント(月間)   3      5         省略

 

等級(役職)ポイント

等級(役職) 1級(一般社員) 2級(現場リーダー) 3級(管理職) 4級(部門長)
等級(役職)ポイント(月間)     1      5       省略

 

退職事由係数
退職事由               自己都合 定年もしくは会社都合退職
在職年数 10年未満 10年以上20年未満 20年以上30年未満 30年以上    在籍年数問わず
支給係数 省略 0.75    省略  省略    1.0

   1ポイントあたりのポイント単価=1,000円

 

 例)大卒 入社7年後に現場リーダー(2級)に昇格、入社11年後現場リーダー(2級)のままで退職した場合の退職金額の算定

 在職ポイント

  入社3年目まで:3P×12月×3年=108P   入社3年目以降:5P×12月×8年=480P

   在職ポイントの合計:588P

 等級(役職)ポイント

  1級(一般)時:1P×12月×7年=84P  2級(現場リーダー)時:5P×12月×4年=240P

   等級ポイントの合計:324P

   

 総計ポイントから退職金算定

  558P(在職ポイント)+324P(等級ポイント)=882P

 これに退職事由係数=0.75を乗じると661.5ポイントとなり、ポイント単価が1000円なので、この従業員の退職金は661,500円となります。

 

 ポイント制退職金制度の特徴

 この制度では、単に在職年数だけではなく、等級や役職の在位年数によってもポイント差がつくため、同期入社で同じ年に定年退職したとしても、出世の早い人と遅い人では退職金の金額にかなりの差が付きます。単に在職期間だけを算定する方法に比べ、会社への貢献度がかなり色濃く反映される制度であるということが一番の特徴です。

 等級や役職ポイントに上下差をつけることでさらに貢献度、能力や成果を反映させるドラスティックな仕組みにすることも可能です。

 在職時の活躍度合いや貢献度が色濃く反映される制度であるため、従業員のモチベーションに大きく影響します。中途採用者でも貢献度によっては報われる金額となり、優秀な人材の長期定着の動機付けになることがこの制度の一番のメリットです。

 また、基本給の額が退職金に跳ね返る制度とは違い、毎年上がる定期昇給やベースアップに影響されず、退職金が思いのほか高額になってしまうということも防げます。

 退職金制度と給与制度がそれぞれ独立しているので、給与制度を変更しても、退職金額には影響は及ばないので、給与制度の見直しも行いやすいという利点もあります。

                                    

各算定方法のメリット、デメリット

これまで見てきた退職金(一時金)の算定方法についての経営者側から見たメリット、デメリットは以下の通りです。

  ポイント制 基本給連動型 定額制 別テーブル方式
メリット

・在職年数ではなく貢献度が反映される。

・中途採用者も貢献度により報われる。

  ⇒士気が向上する

・給与制度変更、見直しに影響されない

・基本給のアップに影響されないため、当初予想しなかった高額の支払いを防げる

・将来的な退職金額の水準の見直しが可能

・計算や管理が比較的容易

・簡易な設計

・誰が見ても将来の退職金額の把握、予想が可能

・将来的な退職金額の予測が立てやすい

・計算や管理が比較的容易

・給与制度の変更、見直しに影響されない、

デメリット

・ポイント数の管理が煩雑

・金額の予想がつかない(想定以上に高額になる)

・貢献度より在職年数が評価される(年功的)

・給与制度の見直しがやりづらい

・在職中の貢献度が反映されない。

・中途採用者が報われない

・在職期間全体の貢献度が反映されない。(退職時の等級が評価の対象のため)

 

 

退職金額算定方法のトレンド

 色々見てきた退職金額の算定方法ですが、どの手法が今人気があり、よく導入されているのでしょうか?少し古いデータではありますが、退職金額算定方法の統計としては、現状最新データである厚生労働省の平成25年就労条件総合調査で見ていきます。

調査企業全体

 ・基本給連動型  55%

 ・ポイント制   19%

 ・別テーブル制  15%

 ・定額制      8%

 ・その他      3%

調査企業のうち小規模企業(従業員30名~99名)限定での導入割合

 ・基本給連動型  61%

 ・ポイント制   13%

 ・別テーブル制  14%

 ・定額制      9%

 ・その他      3%

調査企業のうち大企業(従業員1,000人以上)での導入割合 

 ・基本給連動型  25%

 ・ポイント制   51%

 ・別テーブル制  15%

 ・定額制      4%

 ・その他      5%

 

 *引用データ:平成25年就労条件総合調査(厚生労働省)

  調査対象は常用労働者30名以上の民間企業6144社、有効回答数4211、有効回答率68.5%

 

 この平成25年時点でのデータでは全体的にはまだ“基本給連動型”が退職金制度の主流となっています。

しかしながら、このデータから大企業を中心に“基本給連動型”から“ポイント制”への移行が進んでいることが見て取れます。基本給と連動した制度であれば、いざ支払うとなったときに予想外の膨張した金額になるリスクがある点、そして終身雇用や年功制の古きよき時代から転職やヘッドハント等の“雇用の流動化”が当たり前となった現代社会においては、勤続年数だけで評価する退職金制度だけでは、転職マーケットからなかなかよい中途採用の人材を呼び込めないということで、大企業を中心にポイント制へシフトしてきたのだと思われます。

 おそらく、この“ポイント制志向”の流れは今後も中小企業にも波及し、このトレンドのまま進んでいくと思われます。

 ただ、運用や設計が簡素という点においては『定額制』や『別テーブル型』の退職金制度も今後も一定の需要は継続してあるものだと思われます。

 いろんな選択肢がある中で自社の身の丈にあった退職金制度を選ぶことが一番大事なことだと思います。

ただ、『身の丈にあった退職金制度』と言われても、どのような基準で選べばよいのかわからないという方もいらっしゃると思います。“優秀な人材確保のための福利厚生”と位置づけるのか、“長期定着のモチベーションアップ”を目標に考えるのか、“原資との兼ね合い”で考えるのか…

 当事務所では御社のこういった退職金設計のお悩みについてしっかりヒアリングさせていただいた上で、ベストなご提案をさせていただきます。

 

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