人事制度、給与・退職金制度、デキる人材の採用・育成(戦力化)・定着を三位一体でサポート!
大阪人事コンサルティングセンター
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評価を今後の処遇にどのように反映していくのか…
各々の従業員への“評価”は確定した。では、その“評価”をどのように、賞与、昇給、昇格等の処遇に反映させていけばよいのだろうか…?
自社に適したやり方はないだろうか?
こういったお悩みを持ち、試行錯誤を色々繰り返している企業さんも多いのではないでしょうか?
特に、評価を昇給や賞与の金銭的要件や、昇進・昇格といった組織での立ち位置にどう結び付けていくかということについては、評価後のモチベーションの在り方に直結するため、自社に合うやり方を慎重に検討する必要があります。
処遇への反映については次の4つのポイントを軸に考えていくとよいでしょう。
1.処遇決定の要素の選択(何を処遇決定の要素にするのか)
2.選択した要素を処遇決定(昇格、昇給、賞与)にどうリンクさせる?
3.給与テーブルを設定するするか否か?設定するならどんな手法があるか?
4.総人件費内でのやりくりとモチベーションの両立
それぞれ、解説をしていきます。
どのような要素を処遇(昇給、賞与、昇格)に結び付けていくのかという事を、まず最初に検討していかなければなりません。
また、その反映要素を管理職と一般職とで違いを持たせるか否かとということも検討しなければならません。
以下の表を参考にして、処遇にどのような要素を紐づけしていくかを、管理職、一般職別に考えていくヒントとなればと思います。
年齢 | 勤続 | 行動 プロセス | 成果 業績 | 役割 | 職務 | 過去の貢献 | ||
管理職 | 昇給 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||
賞与 | △ | ◎ | ||||||
昇格 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
一般職 | 昇給 | 〇 | 〇 | |||||
賞与 | 〇 | 〇 | ||||||
昇格 | 〇 | 〇 |
*上記の例では、シンプルに“評価の2軸”に連動させ、一般職には『行動・プロセス』と『成果・業績』の2項目を、管理職には『行動・プロセス』『成果・業績』に加え『役割』の3項目を処遇決定の要素に据えた手法です。
管理職、一般職それぞれに求める要素は会社の考え方で相違があると思われますので、上記表の項目から重視する要素をご検討くださればと思います。
決定した処遇要素を査定にどうリンクさせていく?
前段のステップで処遇決定要素が決定した。では次のステップで選択した要素をどのように、賞与額、昇給、昇格の処遇に反映させていくのかという事を考えなければなりません。
つまり、ここでは『賞与』と『昇給・昇格』という処遇対象に、評価要素を切り分けて独立させるのか、切り分けないで評価ウェイトを用いて統合して処遇するのかということを検討していくということになります。
切り分けて独立させる手法を『切り分け型』、切り分けないで統合する手法を『統合型』としてそれぞれ事例を使ってご説明します。評価要素はシンプルに“評価の2軸”に連動させ、行動(プロセス)と成果(業績)の2つの要素を使った事例としています。
切り分け型の事例
・行動(プロセス)については 年一回の行動評価で査定 ⇒ 昇給・昇格に反映
・成果(結果)については、年2回の業績評価で査定 ⇒夏・冬の賞与額に反映
というように、昇給・昇格には行動(プロセス)のみを評価対象として、賞与については成果(結果)だけで判断するというように、昇給・昇格の評価の判断要素と賞与の評価の判断要素を完全に分断するやり方です。
統合型の事例
それに対し、統合型は『昇給・昇格の判断要素は〇〇!』『賞与の判断要素は●●!!』というように各々の判断要素を限定することなく、評価対象に対して複数の判断要素を散りばめ、それらの判断要素をプライオリティに従い、点数配分(ウェイト付け)をして処遇を決めていくやり方です。
理屈で説明するより、事例を見ていただいた方が分かりやすいと思います。こちらもシンプルに行動(プロセス)と成果(業績)の2つの判断要素を使った事例を以下に示します。
一般職 | 管理職 | ||
昇給・昇格 | プロセス・行動 | 80% | 50% |
成果・業績 | 20% | 50% | |
賞与 | プロセス・行動 | 50% | 20% |
成果・業績 | 50% | 80% |
切り分け型 | 統合型 | |
どんな手法か? | 行動評価については昇給昇格へ、成果の評価については賞与へとそれぞれの判断要素を完全に分離させ処遇に反映させる方法 | それぞれの判断要素に対する配分割合(ウェイト)を決めて昇給・昇格と賞与の双方の処遇に反映する手法 |
長所 | シンプルかつ明瞭でわかりやすい | 職階により配分割合(ウェイト)を変えることができ設計側に自由度がある。公平感を持たれやすい。 |
短所 | (建前上は)成果や結果を出しても昇給・昇格には直結しない設計 | 配分割合を凝りすぎると、制度が複雑になる。 |
国内企業によく導入されている給与テーブルの方式としては『洗い替え型賃金テーブル』と『累積型賃金テーブル』の2通りの手法がその代表選手と言えるでしょう。
・洗い替え型賃金テーブル
1回すつの評価期間で絶対額を確定する方法。過去の評価が積みあがる『累積型』とは異なり、一評価期間(いちひょうかきかん)ごとにリセットされるので、前回、前々回の評価については後に引かないということが特徴です。
・累積型賃金テーブル
号棒給表を基に、過去の評価結果を積み上げて賃金額を決定していく手法です。
各方式の利点・弱点を纏めたものが以下の表です。
洗い替え型賃金テーブル | 累積型賃金テーブル | |
利点 | ・一評価期間の評価を、即処遇に反映できる ・過去の評価が後に引かないので、挽回するモチベーションに繋がる | ・長いスパンで見た場合、コツコツ昇給するので安定感がある ・入社から定年までのモデル賃金がシュミレーションしやすい |
難点 | ・給与水準が一定以上でないと導入が難しい ・評価が即処遇に反映されるため、落ち着かない | ・業績が悪化した際も昇給を見送りにくい、減給がやりにくい ・中途採用者からは不公平感を持たれやすい
|
・号棒給表を使った累積型賃金テーブルのイメージ
号棒給表に評価結果が反映できるようにしたもの(昇給のはしごが2本:ダブルラダー方式)
<号棒給表のモデルケース>
1等級 | 2等級 | 3等級 | 4等級 | 5等級 | |
(昇給ピッチ) | 1,000 | 1,000 | 2,000 | 3,000 | 4,000 |
1号 | 155,800 | 159,800 | 165,800 | 205,800 | 245,800 |
2号 | 156,800 | 160,800 | 167,800 | 208,800 | 249,800 |
3号 | 157,800 | 161,800 | 169,800 | 211,800 | 253,800 |
4号 | 158,800 | 162,800 | 171,800 | 214,800 | 257,800 |
5号 | 159,800 | 163,800 | 173,800 | 217,800 | 261,800 |
6号 | 160,800 | 164,800 | 175,800 | 220,800 | 265,800 |
7号 | 161,800 | 165,800 | 177,800 | 223,800 | 269,800 |
8号 | 162,800 | 166,800 | 179,800 | 226,800 | 273,800 |
9号 | 163,800 | 167,800 | 181,800 | 229,800 | 277,800 |
10号 | 164,800 | 168,800 | 183,800 | 232,700 | 281,800 |
11号 | 165,800 | 169,800 | 185,800 | 235,800 | 285,800 |
12号 | 166,800 | 170,800 | 187,800 | 238,800 | 289,800 |
13号 | 167,800 | 171,800 | 189,800 | 241,800 | 293,800 |
14号 | 168,800 | 172,800 | 191,800 | 244,800 | 297,800 |
15号 | 169,800 | 173,800 | 193,800 | 247,800 | 301,800 |
〈評価結果での昇給表のモデルケース〉
| S | A | B | C | D |
5等級 | 4,200 | 3,800 | 3,400 | 3,000 | 2,600 |
4等級 | 3,600 | 3,300 | 3,000 | 2,700 | 2,400 |
3等級 | 3,300 | 3,000 | 2,700 | 2,400 | 2,100 |
2等級 | 3,000 | 2,700 | 2,400 | 2,100 | 1,800 |
1等級 | 2,700 | 2,400 | 2,100 | 1,800 | 1,500 |
・洗い替え型賃金テーブルのイメージ
*基本給、諸手当等固定額で支給する給与を低く抑え、評価結果で可変する“評価給”を多めのポーションに設けることがポイントです。
<評価給のモデルケース>
*1年目に最高のS評価を取っても、2年目に最低のD評価になってしまうと、結果的に昇給ゼロになることがご理解いただけると思います。
| S | A | B | C | D |
1年目 | 83,600 | 82,750 | 8,1900 | 81,050 | 80,200 |
2年目 | 87,000 | 86,150 | 85,300 | 84,450 | 83,600 |
3年目 | 90,400 | 89,550 | 88,700 | 87,850 | 87,000 |
4年目 | 93,800 | 92,950 | 92,100 | 91,250 | 90,400 |
5年目 | 97,200 | 96,350 | 95,500 | 94,650 | 93,800 |
6年目 | 100,600 | 99,750 | 98,900 | 98,050 | 97,200 |
7年目 | 100,400 | 103,150 | 102,300 | 101,450 | 100,600 |
8年目 | 107,400 | 106,550 | 105,700 | 104,850 | 104,000 |
9年目 | 110,800 | 109,950 | 109,100 | 108,250 | 107,400 |
10年目 | 114,200 | 113,350 | 112,500 | 111,650 | 110,800 |
11年目 | 117,600 | 116,750 | 115,900 | 115,050 | 114,200 |
12年目 | 121,000 | 120,150 | 119,300 | 118,450 | 117,600 |
この『洗い替え型賃金テーブル』をうまく応用できれば、『中途採用者が多く、同じ等級や同じ役割で、給与の高い社員、低い社員が混在してしまっている』というようなケースであっても、運用後、時間の経過と共に、本人たちの実力に見合った給与水準に着地させることが可能です。
いずれにしろ、賃金テーブルを設けるということは、原則ルールに縛られることとなり、テーブル通りに給与を運用しなければならず、会社業績などの兼ね合いの弾力性は失われることになります。
賃金テーブルを設けるのがいいのか、あるいはもっと弾力性のある別の方法で賃金を決定するのがいいのか、現行の評価制度との親和性を考えて慎重に検討するべきでしょう。
人件費の調整弁、どう考える?
この記事の最後となりますが、評価を給与や賞与への処遇に反映させる際の、総人件費との兼ね合い、つまり人件費の調整弁について触れておきたいと思います。
今日の国内企業の多くはバブル時期とは異なり、よほどのヒット商品の誕生がない限り、急激な売上や利益な増大は見込めない状況となっております。
よって人件費も全体の総枠がまずありきで、その総枠の中で割り振りを考えていかなければならないということになります。
前述しましたが、賃金テーブルを導入すると、どうしても毎年上昇することが確約された昇給ルールに縛られた上に、その毎年昇給された基本給に連動して賞与額を決めるような制度であれば、さらに人件費を引き上げる要因となってしまい、会社業績の好不調という不確定な要因に対して弾力性に欠ける制度になってしまいます。
よって、給与テーブルを設ける場合は、毎年定期的に上昇する要素を可能な限り、抑えた上で、会社業績の良し悪しに伴う弾力的な調整弁として、業績賞与を充てるというやり方も1つの人件費高騰対策になってくると思います。
高水準の昇給or業績賞与…どちらが社員のモチベーション維持に有効か?
高い水準の昇給が従業員のモチベーションに与える影響について考えたいと思います。ハースバーグという米国の心理学者が唱えた『動機付け衛生理論』という理論では、人間のモチベーションに結び付く要因を『動機付け要因』と『衛生要因』の2つに大別しました
・動機付け要因
この要因が満たされるとモチベーションが大きく上がるが、仮に満たされなくてもさほど、モチベーションが下がるわけではない。
・衛生要因
この要因が満たされてもモチベーションはさほど上がらないが、この要因が満たされなければ、モチベーションは大きく下がる。
給与等の労働条件についてはこれら2つのうちの『衛生要因』の方に属すると解されています。つまり、業績がよかった時にドラスティックに大幅な昇給を実施したとしても、さほど従業員のモチベーションには響かないということが予想されるわけです。
加えて人間の脳には『馴化(じゅんか)』という機能、すなわち、大幅昇給のような大きな刺激があったとしても、それが長時間繰り返し与えられると、その刺激に対して鈍感になり、反応が見られなくなるという、脳の傾向があります。
大幅昇給の直後は、社長に対し感謝しモチベーション高く働いたとしても、それが2カ月3か月経過することによって、『馴化』し、その給与を受け取ることが『当たり前』の感覚になるように脳がプログラミングされているのです。
その後もし、業績が悪い年があり、昇給ゼロ、あるいは降給をせざるを得なくなることになれば、給与が『衛生要因』だということを考えると、社員のモチベーションが一気に下がることになり、非常にリスキーです。
こういった、人間の脳の性質や心理学での観点からも、給与については年ごとの上昇はできるだけ抑えた体制で、業績賞与という調整弁をうまく活用する手法が理にかなっていると言えるでしょう。
児島登志郎
児島労務・法務事務所代表
社会保険労務士・行政書士
組織心理士・経営心理士(一般財団法人 経営心理士協会認定)
採用定着士(一般財団法人 採用定着支援協会 認定)
元 大阪労働局 総合労働相談員
元 労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員
10年間労働基準監督署にて、労働相談員、点検指導員を勤め、その間受けた労使双方からの労働相談件数は延べ15,000件以上。労働者側、使用者側の双方からの多くの相談を受けたことにより、社員のモチベーションポイントがどこにあるかを把握するきっかけとなった。現在はその経験と後に習得した心理学の知識を活かし、人事評価制度導入や社員研修、組織コンサルティング等により組織の活性化や社員のモチベーションアップで企業をサポートしている。